2023.04.14

見えないところにこだわる足袋の老舗メーカー

美津菱足袋株式会社 代表取締役 / 廣瀬雄一郎さん

縫製業デザイン製造卸売・小売 人材育成次世代への技術継承人材の確保DX化/IT化販路拡大

 

徳島県は埼玉、岡山に並ぶ足袋の国内三大産地の一つです。江戸時代後期に家庭の内職として作られて以降150 年以上の歴史を誇り、今もなお能・狂言・歌舞伎・日本舞踊といった世界に誇る伝統芸能や、結婚式での礼装など和装をする際に欠かせない着付け小物です。

そんな足袋を販売する全国有数の専業メーカーが『美津菱足袋株式会社』です。昭和30 年の創業以来、鳴門を拠点に他社の追随を許さない技術力で高い評価を得ている同社。製品種類の多さは一線を画しており、特に足袋を履きなれない人が使いやすいようにと、ナイロンストレッチ足袋を全国で初めて商品化したことで、一躍業界で有名になりました。

代表取締役の廣瀬雄一郎さんはもともと東京でテレビコマーシャルを製作する会社に身を置いていましたが、家業をつぐため帰郷。足袋の世界に足を踏み入れました。

「畑違いの業界から来て大変だったと思われるかもしれません。ですが業界は違っても、クライアントから受注を受けて、納期までに期待以上のモノを作って満足していただくという仕事は同じだと思っています。とはいえ、知らない足袋を履いたこともなかったので、最初のうちは戸惑いや苦労が多かったのも事実です」。

美津菱足袋の作る足袋は丈夫で履きやすく、見た目が美しいと大変人気。和装を職とする人からの引き合いも多く、東京・京都の得意先が多いそう。特に全国初のナイロンストレッチ足袋はそれまで綿素材が当たり前だった足袋の常識に一石を投じました。

「生地に伸縮性があるので履き心地がソフトで、足袋を履き慣れない方にもオススメの商品です。もっと気軽に足袋を履いてもらうきっかけになれればと思います」。

そう期待を込めて話す一方で「正装は綿の足袋でないと」という声もまだまだ多く、廣瀬さんも綿の足袋を履くのが好きなんだとか。

「私は世界一の足袋ヘビーユーザーだと自任しています。お風呂に入る時以外は常に足元は足袋に包まれています(笑)」

誰よりも足袋を愛する廣瀬さんに足袋を作る上での他社との違いを尋ねると「見えないところへのひと手間」と言います。美津菱足袋では通常綿の足袋にしか施さない、指先が窮屈にならないように膨らみを持たせる縫製をナイロンストレッチ足袋でも採用するなど見えないところにこだわり、13ある全行程で職人の手を介し、一足一足丁寧に作られます。

 

「例えば、指先や甲の部分の縫製にひと手間掛けるか掛けないかで丈夫さ・履き心地の良さは変わってきます。確かに効率は悪くなりますが、足袋を愛する人の気持ちを最優先にすることを忘れたら生き残っていけません。当社のモットーは、世界一の製品を世界一のスピードで作ること。他社には真似できない商品・サービスを生み出し続けることです」。

 

そんな美津菱足袋が、2021 年夏に新たな挑戦として開発したのが、体幹トレーニングの第一人者である木場克己プロトレーナーが監修した「ナルトレタビ」です。これは200 年の歴史と伝統を有する鳴門の足袋の技術を活用した自宅トレーニング用の足袋で、テレビで取り上げられるや否や問い合わせが殺到。老若男女から人気を博しています。

「足袋を履くと、常に指先と地面を意識することができます。歩くたびに足指が鍛えられるので浮き指防止には最適だと思います。さらにインソールを入れることで土踏まずのアーチの形成をサポートすることができます。足指を意識してほしいのでインソールの先端はカットしていますし、足袋の中にポケットを付けたので、履いているときにインソールがズレる心配もありません」。

最近では、『福助』などと並ぶ足袋業界では老舗ブランドである『白鹿足袋』を受け継ぎ、より一層「技術の継承」について意識しているようです。

「縫製の技術を未来へと伝えていくには、より広い世代の人たちに足袋を知ってもらう必要があります。日常的に足袋を履く方や足袋に馴染みの薄い方、誰が手に取ってもその良さを実感してもらえるような足袋をこれからも作っていきたいと思います」。

 

課題

・次世代への技術継承、人材育成
・OEM も含めた商品の販路拡大

企業情報

企業名 美津菱足袋株式会社
業種 製造業
事業内容 足袋の受注製造
住所 撫養町南浜字浜田8-2
代表者名 廣瀬 雄一郎
設立 1955 年
電話番号 088-686-3996
E-mail mitsubishitabi@smile.ocn.ne.jp