日本最高峰の“ウキ”を作り続ける 女性社長の挑戦

 

刺し餌を遠くのポイントまで飛ばしたり、魚のアタリを知らせたりと多様な役割で釣り人をサポートしてくれる釣具・ウキ。種類も豊富なウキの中で、陸と繋がった地磯や、渡船でわたった沖磯で行う磯釣りに特化した日本一高価な「松山（税込2,420 円～ 5,390 円）」シリーズをはじめとした円錐ウキを開発・企画販売しているのが『有限会社エムアンドエム』です。

「松山」シリーズ（通称・松田ウキ）は玄人の間で広く知れ渡っており、“とにかく釣れる”ことで有名です。その特徴は企画から製造まで全て手作業で仕上げるこだわりと、ウキ内部に使用する鉛の種類や重量へのこだわり。何より、特許を取得している内部構造に秘密があります。また、全国にいる松田ウキのテスターや利用ユーザーからの要望を積極的に取り入れ、次々に新商品をリリース。「松遠」は「松山より遠くに飛ばしたい」「もう少し大きいサイズに」などのリクエストをウキ内部のバランスを保ちつつ最大限叶えられるように試行錯誤して生まれた商品で、多くのファンを魅了しています。

「ただ沈んだのがわかるだけでなく、“魚を釣る”ところまでナビゲートするのが、弊社のウキの役目だと思っています。魚が刺し餌を食べた・離した、今どこに刺し餌があって潮がどう動いているのか、目に見えない海中の状況を釣り人に伝えてくれるので、経験値がない初心者にこそオススメできます」。

ユーザーの声を大切にし、より良いウキを提供するために日々探究を続ける代表・小川美香さん（39）。もともと京都で美容師をしていた小川さんですが、サロン内で英語が話せずお客様に最高のおもてなしができないことを払拭しようと海外へ。帰国後、再びサロンに戻る前に島根・隠岐島へ帰郷。馴染みの顔ぶれと話をする中で遊ぶ場所がないと聞いた小川さんは美容師に区切りをつけ、若者が集える飲み屋を開店。そんな時、知り合いから釣り番組の打ち上げ会にコンパニオンとして参加してほしいとの依頼が。その会で出会ったのが松田稔さん。話をするうちに打ち解けた頃、当時エムアンドエムの代表を務めていた松田さんから「会社に来ないか？」との誘いがあり、思い悩んだ末に徳島へのI ターンを決意しました。

「名釣会の会長であり、多くの弟子を抱える松田さん（以下＝会長）は釣り界隈では有名人です。なのに一切天狗にならない。むしろどうしたら釣り人を増やせるか、どうしたらより楽しい釣りができるかなど、とにかく人のために奔走する人。会長からそれが正解か不正解かではなく、自分の信じた強い気持ちを100％出し切ることが大切なんだと学びました」。

徳島・鳴門という新天地。加えて縁もゆかりもない業界に次期社長を目指して飛び込んだ小川さん。慣れない環境に苦労しながらも折れることなく挑戦を続け、4 年前からは事業所のある北島町で直販サイトを始めました。

「個人的に卸し一本はベストではないと思っています。弊社のウキの良さを100％伝えられるのは釣具屋さんではなく私たち。餅は餅屋ですから。私は職人ではないので正直ウキは作れません。品質を信頼する職人スタッフに任せる代わりに直販の表に立ち、お客様に商品をしっかり理解してもらい、付加価値をつけて釣りを楽しんでもらうのが私の役目だと考えています」。

エムアンドエムが手掛けるウキはどれも磯釣り用。現在、釣りをする人口は全国600 万人以下といわれています。かつての5 分の１程度にまで減少した釣り人口の現状に一定の理解を示しつつも、少しでも回復させるためにビギナーの人にこそ弊社のウキを試してみてほしいと話す小川さん。

「確かに磯釣りは船賃や餌代、道具代など一度の釣りの機会で出費が多い。初心者の方からすると、できるだけ出費を抑えたいと思うのも無理ありませんし、節約するなら針や糸など細々した道具に目がいくでしょう。当然ウキもその一つだと思います。しかし、かかるお金じゃなく魚を釣り上げることに価値を見出してもらえたらなと思います。金額こそ値は張りますが、坊主（目的の魚が一匹も釣れないこと）で終わらせないお手伝いを弊社のウキならできると確信しています。ぜひ一度試していただいて、松田ウキの良さを理解していただく。そんなお客様を一人でも増やせて行けたら嬉しいです」。