誠実な物づくりから生まれる、喜びの声が生きがい
株式会社吉成産業 代表取締役/吉成 茂紀 さん
全盛期と比べると、その供給量は約1/3以下にまでに減ってしまったという日本家屋の代表的な特徴である「屋根瓦」。近年では瓦を使わない洋式の住宅が増えたことに加え、「瓦は初期コストやメンテナンス費用がかかる」、「瓦は地震などの防災に弱い」といった風評に近いイメージが先行しています。
「阪神・淡路大震災の際、倒壊した日本家屋の映像がテレビなどのメディアで流れました。きっとその時の印象が強いのだと思います。実際には瓦が弱いのではなく、瓦施工方法や建物の構造、地盤が大きな問題でした。コストにしても、屋根形状や建物構造にもよりますが、しっかりした施工業者が良質な材料を使用すれば、50年程度はノーメンテナンスで維持させることも可能になります。『施主には見えない場所だから』と詐欺まがいの施工をする業者が屋根工事業に参入してきたことで、良いイメージを持たれなくなったことも一因でしょうね」
そう話してくれたのは、父の代より50年ものあいだ瓦屋根工事に携わっている「株式会社 吉成産業」の代表取締役・吉成茂紀さん(48)。瓦屋根の施工に加え、屋根工事に必要な釘やビスなどの資材を企画〜開発、販売をする会社です。現在までに全国の寺院や施設に使用する瓦屋根の材料監修、現場監修も行ってきました。
「徳島は昔から台風が多く、瓦が飛ぶなどの被害も多い地域でした。そういう地域特有の風土もあり、昔から瓦屋根に対しては施工をはじめ、弊社でもオリジナルの釘を開発するなど独自の工法や部材で工夫を凝らしている県だったんです。阪神・淡路大震災から4年ほど経った頃、国交省から施工業者の組合に対し『瓦屋根に対する仕様書を作成するので協力して欲しい』と要請がありました。私の父親(現会長)が当時全国で約4,000社が加盟する『全日本瓦工事業連盟』の顧問的な立場にいたことと、独自に培った知識があるということで平成13年に発行された『瓦屋根標準設計・施工ガイドライン』における構造計算や試験法に携わらせていただきました」
吉成産業ではガイドライン策定前から、ヨーロッパの機械を参考にして自社開発した「引き上げ試験機」(施工した瓦に穴を空けてワイヤーで引き上げ、耐風性能を測定する試験機械)を用いて独自の試験法を考案し、使用していました。その試験機の存在を知った国交省が「一度見せて欲しい」と同社を訪ね、国の考える理論数値に合わせたカスタマイズを施した後、その機械やデータは現在の日本の引き上げ試験の基準として採用・使用されています。
「当時は私もまだ半人前でしたので、色々と勉強になることが多かったですね。約1年半もの間、国交省から求められているデータを取ることだけに従事していました。数え切れないほどの苦労はありましたが、その時に採取したデータが今でも業界の役に立っていると思えば嬉しいです」
吉成さん自身は現場にも精通した「屋根工事」事業者ですが、人柄を一言で表すなら「情熱に溢れた研究家」。「お客さんにとって安心・安全・最適な部材とはなんだろう。現場の職人さんが使いやすい資材はなんだろう」と日々新しい資材の開発に余念がありません。今までに開発した商品は100を超えていると言います。例えば現在の平板瓦(長方形の洋風洋式の瓦/F形瓦)の約90%に使用されている平板瓦補強7形釘は30数年前に同社が開発したもの。特許が切れた後も改良を加え、現在5代目となる平板瓦の釘を製造しています。
「弊社では平版瓦の釘をはじめ、様々な部材や工法を開発してきました。例えば、屋根の頂点に配置する瓦のことを『のし瓦』と言うのですが、ここは雨漏りや地震で崩れやすいとされている箇所です。頂点にある左右前後ののし瓦の穴に銅線を通して締め付ける「のし瓦緊結」という作業が本来必要なのですが、作業に手間がかかることもあり、残念ながら実際に施工している業者さんは半数程度……というのが現状です。そこで、のし瓦緊結作業の実施率をあげる目的もあり、銅線緊結作業を簡素化する『のしアンカーⅠ』という商品も開発しました」
『のしアンカーⅠ』は銅で出来た釘状のもので、釘頭が2段(ダブルヘッド)になっている形状。先ず、のし瓦の穴にのしアンカーを通し、アンカーの先端部分を曲げて瓦に固定。上に出た頭部分のくぼみに銅線を固定していき、アンカー同士を編むように緊結していく「のしアンカー工法」を提唱しています。同工法は施工の簡素化と同時にコストダウンへの貢献、強固な棟造りを実現しています。
「弊社は屋根に関する材質のこと、加工法、そして工事、全てのことが総合的に理解できている業者だと自負しています。そこが強みであり、自信を持ってお客様に提供できる部分。屋根に関わる業者として良質な部材供給に加え『良心』も必要不可欠ですね。誠実な対応、そしてお客様のことを優先的に考え『ダメなものはダメ』と正直に言ってあげることが大切です。若い頃はよくそれでメーカーさんとケンカもしちゃいましたけど(笑)」
今後はその豊富な知識と経験を活かし、活動していきたいという吉成さん。また、最近導入した業務用のカッティングマシンを使用し、ネジやビスなどの部材を収納するパッキングホルダーや商品陳列棚での回収と交換作業を簡易にする補助具の製作にも取り組んでいます。
「根っからの『開発好き』なんでしょうね。毎日何かに取り組んでいないと死んじゃう(笑)。現場の職人さんやお客様から届く『あれ、便利だよ』とか『良かったよ』といった声が私にとっての生きがいなのかも知れません」
課題
・少子高齢化による職人の人材不足
・瓦屋根の需要低下による人材教育と育成機会の低下
企業情報
企業名 | 株式会社 吉成産業 |
---|---|
業種 | 建設業(屋根工事業) |
事業内容 | 屋根工事業・釘及びねじの製造及び販売 |
住所 | 徳島県鳴門市大津町段関字沖野20番地3(本社)/ 徳島県大麻町板東字広塚(大麻事務所) |
設立 | 昭和47年1月11日 |
HP | http://www.yane88.com/ |
電話番号 | 088-685-8388 |
contact_yoshinari@yane88.com |