マイナーなんて言わせない。鳴門の牡蠣を世界へ轟かせる
合同会社oyster professional 代表 / 悦 晃一さん

別名・海のミルクとも呼ばれ、岩に張り付いている貝殻を掻き(カキ)落として採取することからその名が付いたといわれている牡蠣。低カロリーで様々な栄養素をバランス良く含む人気の食材です。一般的に生ものが苦手とされる海外においても生牡蠣を食事に出すオイスターバーがヨーロッパで数多く点在するように、牡蠣は生食の海産物として海外に浸透している、数少ない食材かもしれません。
今年は赤潮の影響をモロに受けましたね…と苦笑いを浮かべつつ話してくれたのは『合同会社Oyster Professional』のCEO・悦 晃一さん。渦潮チャンピオン、渦潮キング、ラブリィキャンディとネーミングセンス溢れる養殖牡蠣を手掛け、関東を中心に取引されています。およそ33年前に悦さんの父親が牡蠣養殖を開始し、幼少期から牡蠣の成長とともに僕も大きくなったと笑います。
「やっぱり牡蠣といえば、養殖も含めて広島県が名産地ですよね。そんな世間的な常識に一石を投じられる可能性を秘めているのが徳島だと思っています。さぁ、ウチの牡蠣を見に行きましょうか」。
そう言って船を走らせること数分。海面に黒い物体が浮かんでいるのが確認できます。近くまで寄ってみると100をゆうに超える黒い箱(以下=バスケット)が連なっていました。まるでバラエティ番組で海上に浮かぶ箱の上を落水しないように走り抜けるアレのよう。これこそ同社が本腰を入れている養殖方法で、業界内のトレンドでもあるシングルシード方式(バスケット方式とも)です。
「これまでは垂下式といって、筏に牡蠣の種が付いた貝殻を海底にぶら下げる方法が主流でしたが、4年前からこの方法も取り入れています。シングルシード方式とは簡単にいえば、一粒ずつの牡蠣を放し飼いで生育させるイメージ。牡蠣同士が密集して押し合いながら成長する垂下式に対して、シングルシード方式は専用のバスケットの中で波に揺られながら、ストレスなく成長していきます」。
知られざる牡蠣の養殖方法について耳を傾けていると、ヘリキャットと呼ばれる機械を用いてバスケットをひっくり返す悦さんの姿が。同じテンポで次々ひっくり返っていくバスケットに呆気に取られる私たちを見て、ニヤりと笑います。
「こうすることで天日干しのように殺菌をすることができます。牡蠣は水から上げると口を閉じ、水中では開く習性があります。この動作を繰り返すことで貝柱が太くなり、甘味が増すんですよ」。
バスケットをひっくり返すメリットはそれだけではありません。ひっくり返す過程でバスケットの目合いに牡蠣がぶつかり、余分な殻が削れていきます。こうすることで牡蠣自身が栄養を殻ではなく身に使うようになるため、サイズこそ小ぶりなものの、より旨味が凝縮した牡蠣になるのです。
「弊社では渦潮チャンピオン(真牡蠣)、渦潮キング(岩牡蠣)、シングルシード方式で育てたラブリィキャンディの3種の牡蠣を養殖・販売しています。特徴は大きさでしょうか。渦潮チャンピオンは250g以上、渦潮キングは500g以上、大きいもので800gになるものもあります」。
他を寄せつけない圧倒的なサイズの牡蠣に興奮冷めやらぬ私たちをよそに船の向かった先は悦さんが所有している筏。海底へ手を突っ込み引き上げた網の中には、無数の酒瓶が。何のこっちゃと立ち尽くす私たちを見て、笑い声と共に「これはお酒の海底熟成です」と教えてくれました。
「ある時、沈没船の中から色々なものが出てきたというニュースを見てこれだと。お酒を海底熟成したらどうなるのかなと思ったのがきっかけです。これまで筏は牡蠣養殖でしか使っていませんでしたし、ひょっとしたら水産業をサスティナブルな産業にできるんじゃないかなって。実際やってみると、波のわずかな振動や潮の満ち引きで、陸上よりも熟成の進行が早いことが判明しました。味わいもまろやかになって、若干とろみもつきます」。
既に希望者を募り、1年間熟成した酒瓶を配り終えたそうで、「飲みやすくなった」「家にいながらも海の情景が浮かんでくる」と人気だといいます。
「最も適した熟成期間は研究中です。お酒の種類によっても異なるでしょうし。ゆくゆくは1年熟成したお酒を記念日に飲んでもらったりとか色々な構想を温めています」。
渦潮チャンピオンに渦潮キングなど同社の牡蠣といえばこのネーミングも大きな特徴の一つ。一度聞いたら忘れない、脳内に強烈なインパクトを残すこの名前はどこからきているのかと悦さんに尋ねると、優しい笑顔はそのままに、力強い言葉で教えてくれました。
「一発で徳島を連想できて、かつ徳島って牡蠣養殖については全国的にもまだマイナーですけど、せっかくやるなら一番を取りたいじゃないですか。だから渦潮チャンピオンやキングという名前をつけました。また、三倍体(二倍体である天然の牡蠣と違い、品種改良を行なった牡蠣のこと。産卵しない牡蠣とも呼ばれる)の牡蠣の種苗(タネ)を作っている業者さんは全国に大体4つくらいあるのですが、そのうちの半分が徳島にあるんです。これって結構すごいなと思っていて。ただ資材代が高かったり、そもそもこの業界は新規参入が難しいこともあってなかなか浸透しないのが現状です」。
牡蠣養殖における徳島県のポテンシャルの高さを自負しているからこそ、波及しない現状に悶々としながらも、ラジオや牡蠣の剥き方動画など自己流のSNS発信を通して、徳島県=牡蠣のイメージを持ってもらえるようにと尽力する悦さん。
「まず牡蠣が敬遠される理由って、殻が剥きにくい・生産者が怖いとか色々あると思うんですよ。確かに僕も大柄で怖そうに見えるかもしれませんけど、本当は優しいんですよ?(笑)。剥き方の動画やラジオを通して、牡蠣や僕への関心を持ってもらえたらなと思っています。そうすれば自然と徳島に注目してもらえるし、派生して他の特産物のことも知ってもらえたら万々歳です。今後はウチの牡蠣をブランディングして、徳島の牡蠣を国内外にアピールしていきたいですね。そのためにも、SNS発信などできることをコツコツやっていこうと思います」。
課題
・知名度の向上
・海外を含む販路の拡大
・担い手、後継者不足
企業情報
企業名 | 合同会社 oyster professional |
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業種 | 漁業 |
事業内容 | 牡蠣養殖、販売 |
住所 | 鳴門町高島字中島391 |
代表者名 | 悦 晃一 |
設立 | 2023年9月 |
HP | https://x.gd/f6fm5 |
電話番号 | 090-2780-3209 |
koichi58219@gmail.com |